My役所ライフ

役所生活30数年のエピソードを通じて、役所でのちょっとした仕事のコツや活き活きと働くヒントを紹介します!

決裁を見る大切さ

 

 

 局長さんなど偉い人に決裁(稟議書)をもらいに行くのはドキドキするものだ。そして、ご苦労さんなどといわれると、ほっとして、ちょっと達成感を感じる。

 

 新人の頃、一件あたり数千万円の支出決裁をいくつか持って局長室に行った時のこと。

「○○の件で、ご決裁をいただきに参りました」

「ああ○○か。ご苦労さん。済まんが、この印鑑使って、そこのテーブルで押して」

「ご覧にならなくていいのですか」と思わず問いなおしたところ、

「きちんとやってくれてるんやろ。俺はみてもわからんから」

 邪魔くさがられている訳ではなく、親分が子分に任せたという感じで、その時は「かっこいい!」と思った。

 

 一方、その後に仕えた局長は、決裁を見たとたん、赤鉛筆を持ち出して、「この文章は、ここで句点を打った方がいいですね。ここは主語をきちんと書かないと分かりにくいです。それから、ここは時制の一致に気を付けて過去形にしましょう」などと、説明しながら、決裁文を修正していく。

「はい、今度から気を付けてください」と返された決裁は、びっしり赤鉛筆で添削された、まるで通信教育の教材のようになっているのだった。

 これはへこんだ。でも、無傷で押印してもらえる人は少なく、その局長は、「昔、職員研修の担当だったから、今でもその仕事ぶりが抜けないのだ」と陰口をたたかれていた。

 でも、その歳に自分もなると、結構、同じことをしている。神は細部に宿るとか言いながら。

 

 それから、土日に一人で職場にでてきて、まとめて決裁をみる局長もいた。そして、おかしいと思った決裁には、週明け、順番に、所属長を呼びつけて絶対に何が気に入らないか言わず、ただ「これでいいの?」と聞く。いいと思いますといわれると、「本当に?」と繰りかえす。そのうち、その所属長は、いえ、ちょっと問題があると思いますと引き下がり、再チャレンジに挑む。

 なぜ、土日かといえば平日は飲みに行くのが仕事だから。なぜ答えを言わないのか。答えをいったら自分たちで考えなくなるから。

 

 最後の局長は、電卓と法令を必ず机に置いて、決裁に誤りがないか、丁寧にチェックする人。何もなければ静かに判を押して返す。

 局長まで行く決裁は、そんな電卓をたたくようなところが間違ったままのはずはない。決裁に時間もかかるし、手間だろうと「そのあたりのチェックは、僕らがきちんとやりますから」と言ったことがある。それに対し

 「以前、僕がいいかげんに決裁した結果、誤った決裁をそのまま実行させてしまった。事件になって、起案した担当者の人生を大きく狂わせてしまった」

 上司の決裁の仕方1つで、人も組織も、元気にもなれば、病みもする。